ランダムウォークは数学、物理学、経済学、生物学など多くの分野で応用される概念です。この記事では、ランダムウォークの基本と、ランダムウォーク性を持つ時系列データの多変量解析について説明します。
ランダムウォークとは?
ランダムウォークは、一連のランダムなステップから成る経路を指します。特徴は以下の通りです。
- ランダム性: 各ステップは完全にランダムで、前のステップとは無関係です。
- 無記憶性: これまでの経路に関係なく、次のステップはランダムです。
- 累積的な効果: 長期間にわたり、複雑で予測不可能な経路を描きます。
例
- 株価の動き: 株価の動きはランダムウォークとしてモデル化され、予測不可能とされています。
- 粒子の運動: 液体や気体中の粒子のランダムな動き(ブラウン運動)もランダムウォークです。
- 動物の移動パターン: 食糧を探す動物のランダムな動きもランダムウォークの一例です。
ランダムウォークなデータの多変量時系列解析
ランダムウォーク性を持つ時系列データでも、多変量解析を用いればある程度の予測が可能です。主な方法は以下の通りです。
ベクトル自己回帰(VAR)モデル
複数の時系列データ間の線形関係をモデリングします。
一般的なVARモデルの数式は次のように表されます。
$$
Y_t = A_1 Y_{t-1} + A_2 Y_{t-2} + \cdots + A_p Y_{t-p} + C + \epsilon_t
$$
ここで、
- \(Y_t\) は時点 \(t\) におけるベクトル(複数の時系列データのセット)
- \(A_1, A_2, …, A_p\) はモデルの係数行列で、各時系列データ間の関係を捉えます
- \(p\) はモデルのラグ(遅れ)の数
- \(C\) は定数項(インターセプト)ベクトル
- \(\epsilon_t\) は時点 \(t\) における誤差項(ノイズ)のベクトル
共和分(Cointegration)分析
非定常時系列データ間の長期的な平衡関係を利用して予測します。
共和分関係の基本的な数式は次のように表されます。
$$
Y_t = \beta_1 X_{1t} + \beta_2 X_{2t} + \cdots + \beta_n X_{nt} + \epsilon_t
$$
ここで、
- \(Y_t\) は非定常な時系列データ
- \(X_{1t}, X_{2t}, …, X_{nt}\) は他の非定常な時系列データ
- \(\beta_1, \beta_2, …, \beta_n\) は共和分関係を表す係数
- \(\epsilon_t\) は誤差項で、定常な時系列データを示します。
誤差修正モデル(ECM)
短期的な変動と長期的な平衡関係の両方をモデル化します。
$$
\Delta Y_t = \alpha (Y_{t-1} – \beta X_{t-1}) + \gamma_1 \Delta Y_{t-1} + \gamma_2 \Delta X_t + \epsilon_t
$$
- \(\Delta\) は差分演算子を表します。
- \(Y_t\) と \(X_t\) は共和分関係にある時系列データを表します。
- \(Y_{t-1} – \beta X_{t-1}\) は共和分関係の誤差項を示します。
- \(\alpha\)、\(\gamma_1\)、\(\gamma_2\) はモデルの係数を表します。
- \(\epsilon_t\) は誤差項を示します。
事例
- 金融市場: 株価や為替レートと経済指標の関係を分析して予測します。
- 気象データ: 他地域の気象データや気候変動の影響を分析して予測します。
- エネルギー価格: 経済指標や他のエネルギー市場との相関を分析して予測します。
ランダムウォークのデータは予測が難しいですが、多変量時系列解析によって有用な予測を行うことができます。
コメント