バリューチェーンの理解: 企業活動の統合と競争優位を高める戦略

企業活動を考えるとき、製品の設計から製造、マーケティングに至るまで、さまざまな工程が絡み合っています。これらの活動の全体像を理解し、どのように相互に関連しているかを体系的に分析するのが、「価値連鎖」= バリューチェーンという概念です。企業はこの価値連鎖を、より大きな価値システムの中に位置付ける必要があります。

この記事では、価値連鎖について解説します。中小企業診断士の資格試験での出題例も紹介しますので、さらに理解を深めてください。

価値連鎖 (バリューチェーン)

では、「価値連鎖」とは具体的に何を意味するのでしょうか。これは、業界内での競争において、自社を差別化し、コストを削減するための鍵となります。企業の各活動を細かく分けて見ることで、どの部分が価値を生み出し、どの部分に強みや弱みがあるのかを分析します。その結果、競争上の優位性を見極め、顧客に価値を提供するための活動をどう連携させるかが見えてきます。

企業の価値連鎖は、主に「主活動」と「支援活動」の二つに分けられます。主活動は、製品やサービスの提供に直接関わる部分で、購買、製造、物流、販売、サービスなどが含まれます。一方、支援活動は、これらの主活動を支えるために必要な、管理や人事、技術開発、調達などの活動です。これらの活動がうまく機能することで、企業の利益(マージン)が生まれます。

ただし、価値連鎖の中の一部の活動だけが優れていても、企業全体としての効果は限定的です。活動が互いに連携し、顧客に価値を届ける際にこそ、その真価が発揮されます。全体としての価値が提供されることにより、競合他社は単一の部分ではなく全体を模倣する必要があり、これが競争優位の持続につながります。また、複数の事業を展開する企業にとっては、単一事業内の連携だけでなく、事業間の活動の連携も重要です。

中小企業診断士の資格試験の出題例

それでは、中小企業診断士の資格試験の出題例を紹介します。

平成 30 年度 第 6 問

価値連鎖(バリューチェーン)のどれだけの活動を自社の中で行うかが、その企業の垂直統合度を決めると言われている。自社の中で行う活動の数が多いほど、垂直統合度が高く、その数が少ないほど垂直統合度が低いとした場合、ある部品メーカーA社が垂直統合度を高める理由として、最も適切なものはどれか。

ア: A社の部品を使って完成品を製造している企業は多数存在しているが、いずれの企業もA社の部品を仕入れることができないと、それぞれの完成品を製造できない。

イ: A社の部品を作るために必要な原材料については、優良な販売先が多数存在しており、それらの企業から品質の良い原材料を低コストで仕入れることが容易である。

ウ: A社の部品を作るために必要な原材料を製造しているメーカーは、その原
材料をA社以外に販売することはできない。

エ: A社の部品を作るために必要な原材料を製造しているメーカーが少数であり、環境変化により、A社はこれらの原材料の入手が困難となる。

オ: A社は、A社の部品を作るために必要な原材料を製造しているメーカーとの間で、将来起こりうるすべての事態を想定し、かつそれらの事態に対してA社が不利にならないようなすべての条件を網羅した契約を交わすことができる。

解答・解説

価値通鎖(バリューチェーン)に関する出題で、A社が垂直統合度を高める理由が問われています。垂直統合とは、サプライチェーンの異なる段階にある企業が一緒になって、事業の範囲を広げること。例えば、製造業者が販売チャンネルを手に入れるのが「前方垂直統合」、逆にサービスの最終顧客から離れる方向への統合が「後方垂直統合」です。

では選択肢を検討しましょう。

ア: 不適切。会社Aの部品を使う企業はたくさんあって、経営も安定しています。この状況でわざわざ垂直統合して完成品の製造に乗り出すと、既存の顧客と競合してしまい、結果的には逆効果になるかもしれません。

イ: これも「不適切」。原材料の仕入れ先が多く、安定しているので、わざわざ内製化する必要はなさそうです。だから、会社Aが垂直統合する必要はないということです。

ウ: 「不適切」。原材料メーカーが会社A以外の販売先を持っていないので、経営が不安定な可能性があります。だからこそ、新たな販路を探したり、垂直統合を考えるべきです。しかし、会社Aにとっては、他に原材料メーカーがあるので、垂直統合には踏み出す必要が低い、というわけです。

エ: 「適切」。原材料を製造するメーカーが少なく、その中の一つがなくなると会社Aに大きな影響が出るため、垂直統合して原材料の製造を手がけ、安定した仕入れを目指すのは理にかなっています。

オ: こちらは「不適切」。会社Aは契約上のリスクを洗い出し、原材料メーカーと有利な契約を結んでいるでしょう。そのため、安定した仕入れが可能で、垂直統合への必要性は低い、ということですね。

平成 28 年度 第 8 問

競争優位の源泉を分析するには、バリュー・チェーン(価値連鎖)という概念が有効である。バリュー・チェーンに関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア: 差別化の効果は、買い手が認める価値と、自社のバリュー・チェーンのなかで作り出した特異性を生み出すためのコストが同水準になった時に最大化する。

イ: バリュー・チェーン内で付加価値を生み出していない価値活動に関して、アウトソーシングなどによって外部企業に依存する場合、企業の競争力を弱めてしまう。

ウ: バリュー・チェーンの各々の価値活動とともに、それらの結び付き方は、企業の独特な経営資源やケイパビリティとして認識することがでる。

エ: バリュー・チェーンの全体から生み出される付加価値は、個別の価値活動がそれぞれ生み出す付加価値の総和であり、各価値活動の部分最適化を図っていくことが、収益性を高める。

解説

ア: この選択肢は「不適切」と言えますね。製品の価値とバリューチェーンのコストが同じだと、その製品は「価値相当」と見なされます。これでは、製品を差別化しているとは言い難いですね。製品の価値がコストを上回る場合にこそ、顧客はその差別化を実感できるというわけです。

イ: こちらも「不適切」です。バリューチェーン内で付加価値を生み出していない業務は、外部の企業に任せた方がよいでしょう。逆に、付加価値を生み出している部分を外部に委ねると、企業の競争力が落ちてしまいます。

ウ: これは「適切」と言えます。ケイパビリティとは、企業全体の組織的な能力のこと。単に各価値活動を個別に最適化するのではなく、これらの活動がどのように結びついて全体を最適化するかが重要です。この結びつきが、企業独自の経営資源や能力とみなされるのです。

エ: この選択肢も「不適切」と考えられます。個別の価値活動の合計と、バリューチェーン全体から生み出される価値が同じであれば、バリューチェーンの全体最適化はまだ達成されていないと言えます。重要なのは、各活動の個別最適化ではなく、バリューチェーン全体の最適化を目指すことですね。

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