技術経営

企業経営理論

今回は、企業経営理論のうちでも、技術経営の考え方について説明します。

1. 技術の市場性評価

経済成長の要因を供給面から見ると、資本と労働の量的増加と全要素生産性の向上に分解できます。全要素生産性(Total Factor Productivity: TFP)は、技術進歩や資本と労働の質的向上などを表します。

日本の経済では、これまでは資本などの量的増加が経済成長の要因でしたが、経済が成熟化し、少子高齢化や人口減少が進む中で、今後は資本や労働の量的増加は見込みにくくなっています。こうした状況で、TFPの伸び、特に技術進歩の果たす役割が注目されています。

技術革新 (イノベーション) のマネジメント

現代は、技術革新の進行のテンポが非常に速くなっています。このように急速に変化する技術環境の中で、技術(または技術革新)を重要な経営要素として、マネジメントの対象として研究していく必要があります。

この研究は、技術経営論(Management of Technology: MOT)と呼ばれ、1970年代にアメリカで発展しました。その起源は、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック社)の研究所運営のノウハウの蓄積から始まったと言われています。

MOTでは重要な研究対象として「技術革新(イノベーション)」があります。イノベーションの成果は知識であり、特有の特徴を持っています。知識(情報)は物とは異なり、何度でも使用でき、他者による利用を排除することが困難です。つまり、イノベーションは「流出」しやすく、模倣されやすいという特性があります。イノベーションのマネジメントには、こうした事実を考慮して対応する必要があります。

2. 技術関連の重要概念

(1) イノベーションの区分

プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーション

  • プロダクト・イノベーション:新製品に関するイノベーション
  • プロセス・イノベーション:製造工程に関するイノベーション

アバナシーによる整理によれば、産業発展の初期段階では「プロダクト・イノベーション」が先行し、その後「ドミナント・デザイン」と呼ばれる特定の製品概念が主導的な地位を確立します。一度「ドミナント・デザイン」が確立されると、それを効率的に生産するための「プロセス・イノベーション」が中心となります。

「プロセス・イノベーション」によって、専用機械を使用した大規模かつ効率的な生産体系が確立されます。この結果、生産性は一貫して向上しますが、同時に技術選択の範囲は狭まり、新たな「プロダクト・イノベーション」や「プロセス・イノベーション」の大規模な変革が起きにくくなる局面が訪れます。これが「生産性のジレンマ」と呼ばれる現象です。

持続的技術と破壊的技術

  • 持続的技術: 既存製品の性能を高めるような技術
  • 破壊的技術: これまでの技術の壁を大きく突破するような革新的な技術

クリステンセンによれば、従来、産業リーダーである企業は持続的技術の競争において強さを発揮していました。しかし、破壊的技術が市場に登場すると、産業リーダーは短期間で市場地位を失うことがあります。

この現象は、産業リーダーが重要な顧客グループが破壊的技術のメリットをすぐに認めないため、破壊的技術の導入が遅れ、将来の顧客のニーズに対応するための投資のタイミングも遅れるためです。

要するに、従来の技術レベルでは産業リーダーが競争力を持っていたにも関わらず、新たな破壊的技術への適応が遅れた結果、市場での地位を失ってしまう現象を、「イノベーション・ジレンマ」とクリステンセンは表現しています。

(2) 製品アーキテクチャ

製品アーキテクチャとは、製品を設計する際の基本的な設計思想のことです。製品アーキテクチャには様々な区分の考え方があります。

クローズド戦略とオープン戦略

  • クローズド (囲い込み) 戦略

他社の追随を防ぎながら単独で自社製品を業界標準にしようとする戦略。

  • オープン (業界標準) 戦略

他社に対して自社規格を公開して採用してもらい、他社と協力しながら、自社製品およびそれと互換性のある製品を業界標準にしようとする戦略。

モジュラーアーキテクチャとインテグラルアーキテクチャ

  • モジュラー (組み合わせ) アーキテクチャ

製品設計のモジュール化は、注目を集めている製品アーキテクチャです。モジュール化は、統一された規格に基づいて、複雑な製品を複数の部分(モジュール)に分解し、各モジュールごとに独立したイノベーションが行われることで、全体の生産性が向上します。また、これにより、モジュール間のインターフェース(境界面)を集約化することも可能です。

  • インテグラル (摺り合わせ) アーキテクチャ

モジュールとは逆に、それぞれ工程間で摺り合わせを行いながら1つの製品を完成させていくのが「インテグラル (摺り合わせ)」技術です。

製品アーキテクチャの基本タイプ

製品アーキテクチャの基本タイプとしては、「クローズド」と「オープン」「モジュラー」と「インテグラル」の組み合わせとして、「オープン・モジュラー」「クローズド・インテグラル」「クローズド・モジュラー」の3タイプが存在しています。

(3) コモディティ化

コモディティ化とは、市場に出回っている製品が非常に一般的であり、大衆化して個別の特徴や差別性を失い、日常的に使用されるような一般的な商品化する状態を指します。

コモディティ化が進むと、企業間の競争は価格競争に限定され、製品の価格が急速に低下することがあります。

コモディティ化の進行は、モジュール化の進展や中間財の市場化などが推進要因となる場合があります。一方で、製品の競争が主要な機能の競争に限定され、それ以上の付加価値を創出することが困難になり、顧客の価値に限界が生じるなどの課題が指摘されています。

(4) キーデバイス

キーデバイスは、製品の中心的な部品や装置であり、中核機能を担う重要な要素です。これによって製品が他社の製品と差別化され、価格競争に陥ることなく独自性を持つことができます。

例えば、液晶テレビでは液晶表示装置、DVD録画再生機ではディスク駆動装置などがキーデバイスの位置を占めます。

しかしながら、現代ではモジュール化の進展に伴い、かつてキーデバイスとされていた部品さえも中間財として外部の企業に販売され、中間財市場が形成されています。

中間財市場の対象は、部品のモジュール自体だけでなく、どのようにモジュールを組み合わせるかを示したレファレンスモデル(商品システムの標準設計)まで市場で入手可能となっています。また、中間財を調達し、実装技術を持つことで(他社に製造委託することもありますが)、比較的容易に最終製品を製造することができるようになっています。

(5) 様々なタイプの企業 (EMS等)

モジュラー・アーキテクチャに基づく産業のことをモジュラー型産業とも呼び、こうした産業の代表的な存在として、パソコンやデジタルカメラ、液晶テレビなど、デジタル技術や情報技術、エレクトロニクス技術を活用した産業が多く見られます。

(6) スマイルカーブ

「スマイルカーブ」とは、電子機械産業における収益構造の特徴を表現する概念です。この概念は、経済成熟度や顧客ニーズの変化に伴い、収益性が高まる領域と低下する領域がスマイルの形になるという現象を指しています。

スマイルカーブでは、製品の開発や研究などのハイエンド領域と、販売やサービス提供などの顧客に直接関わる領域が収益性の高い部分となります。これらの活動は顧客価値を高めるために重要であり、高い収益をもたらす傾向があります。

一方で、部品のモジュール化や標準化が進むと、組立や製造の部分は効率化や低賃金の国での生産が可能になります。これによって価格競争が激化し、収益性が低下する傾向があります。

現代のデジタル産業においても、製品の品質は向上しており、売上数量も増加している一方で、組立や製造を主とする企業が利益を確保するのが難しいという問題が生じています。この問題は、スマイルカーブの概念と関連付けられ、製造業の付加価値が低下し、収益性が圧迫されるという現実を示しています。

(7) 研究開発型企業

自社開発した技術を商品化して成長を志向するベンチャー企業では、その成長プロセスにおいて、以下の3つの障壁 (関門) が指摘されています。そのため、これらの回避策を考えることが、研究開発型企業においては重要課題です。

魔の川 (デビルリバー)

魔の川とは、基礎研究で開発されたシーズの社会的な有用性が識別しにくいことによる障壁 (関門) 。

死の谷 (デスバレー)

死の谷とは、応用研究と製品開発の間で十分な資金や人材などの資源を調達できないという障壁 (関門) 。

ダーウィンの海

ダーウィンの海とは、事業化を成し遂げた後に、市場で直面する激しい競争状況による障壁 (関門) 。

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