PPM = プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは?

企業経営理論

1970年代に入り、企業の多角化が進展するにつれて、多角化した事業活動をどのように効果的に管理するかという問題がますます重要となりました。特に、限られた経営資源を多角化した事業間でどのように配分するかという問題が注目されました。

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)がゼネラル・エレクトリック社(GE)の要望に応える形で開発したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)と呼ばれる手法は、特に資金の効果的な配分に焦点を当てたものです。この手法は、企業内の複数の事業間で資金のバランスを取ることによって、安定した企業成長を促そうとするものです。

PPMの理論的な基礎には、経験曲線と製品ライフサイクルがあります。

経験曲線

経験曲線は、製品の累積生産量が増えるにつれて、製品1単位当たりのコストが減少するという経験的な法則を示しています。

この現象は、労働者の熟練度向上による効率化、作業の標準化や改善、製造プロセスの改善や改良、製品の標準化、生産設備の効率向上などによるものです。経験曲線によれば、累積生産量が大きい企業は低コストを享受し、競合他社よりも価格競争力が高いことが示されています。

将来のコスト低下を予測し、低価格で市場を席巻し、競合他社に対する相対的なシェアを拡大することで、累積生産量の差を広げることができれば、コスト面での優位性を拡大し、高い利益を得ることができます。

PPMでは、図表の横軸に「相対的市場占有率」が取られますが、この理論的基礎は経験曲線にあります。つまり、経験曲線の効果(単位当たりコストの低下)によって、相対的市場シェアが高い場合、企業はその産業の需要量の大部分を占めており、大量販売によって多くの資金が企業内に流入することになります。

以上のように、PPMの横軸の「相対的市場占有率」の大きさは、経験曲線を理論的基礎とした資金の流入量と関連しています。

経験曲線と規模の経済

経験曲線は、累積生産量の増加と単位当たりのコストの関係を示す経験則です。規模の経済とは異なる要素もあります。

規模の経済は特定の時点での生産規模と単位当たりのコストに焦点を当てますが、経験曲線は生産の累積量と単位当たりのコストに注目します。また、企業があまりにも規模を拡大すると経済的に効率が悪くなるとされていますが、経験曲線のモデルでは累積生産量の増加に伴って平均コストが上昇する局面は存在しません。

さらに、規模の経済は一定時点の静的な効果を考慮していますが、経験曲線では累積生産量を基にした動態的効果に焦点を当てています。

製品ライフ・サイクル

製品ライフサイクル(PLC)は、製品が市場に導入されてから最終的に市場から姿を消すまでの周期や寿命を指す概念です。製品の需要量も同様に変動するため、生物の寿命と同様に考えられます。

製品の寿命は異なる場合もありますが、需要は導入期から始まり、成長期に急増し、成熟期には停滞し、衰退期に減少する傾向があります。期間と需要量の間には関連があります。

製品ライフサイクルの導入期は、新製品が市場に導入されたばかりで、顧客も少なく、生産量や売上高も限られています。成長期になると需要が急速に増加し、売上高も急増します。成熟期に入ると売上高がピークに達し、成長率が鈍化していきます。衰退期に入ると、新製品が登場したり消費者の好みが変化したりすることで需要が減少します。

PPMと関連して言えば、PPMでは図表の縦軸に市場成長率を使用しますが、この理論的基礎は製品ライフサイクルに基づいています。

市場成長率が高く、需要の急激な増加が見込まれる場合には、例えば新規顧客獲得のための広告や販売チャネルの開拓などに多額の投資が必要になり、資金が流出することがあります。

したがって、PPMの縦軸である「市場成長率の大きさ」は、製品ライフサイクルに基づく資金の流出量と関連しています。

PPM

PPMは企業の成長と存続を、その事業ポートフォリオの更新と、その内部における資源配分の問題として捉えようとしたものです。

PPMは企業が営んでいる複数の事業を、市場成長率と市場における相対的市場シェア(ある事業単位についての業界最大のライバルのシェアと比較しての自社のシェア= 自社のシェア / 業界最大のライバルのシェア)の2つの基準によって分類しました。

前述の通り、市場成長率は事業の資金要求(資金の流出量や必要な投資額)の大きさと関連し、相対的な市場シェアは事業の資金供給力(資金の流入量)と関連しています。

PPMでは、事業間の資金の流出入と資源配分を分析するために、以下の事業ポートフォリオ区分を使用します。

(1) 問題児 (Question Mark or Problem Child)
(2) 花形製品(Star)
(3) 金のなる木(Cash Cow)
(4) 負け犬(Dog)

問題児は、製品のライフサイクル上、導入期または成長期の初期に位置しています。そのため、まだ資金の流入量は少ないものの、技術改良やシェア拡大のために多額の投資が必要とされるため、資金の流出量は大きくなります。結果として、キャッシュ・フローはマイナスとなります。

花形製品は、製品のライフサイクル上、成長期に位置しています。比較的良好な売れ行きを示しており、資金の流入量は大きいです。しかし、広告媒体を活用した販売促進や販売チャネルの整備、さらなる技術改良のための投資が必要です。そのため、資金の流出量も大きくなり、キャッシュ・フローはゼロか、少額の残りとなるでしょう。

金のなる木は、製品のライフサイクル上、成熟期に位置しています。製品はよく売れており、資金の流入量は大量です。一方、新たな投資の必要性はあまりないため、この製品は企業の財務を支える象徴的存在となります。

負け犬は、製品のライフサイクル上、衰退期に位置しています。資金の流入量も流出量も少ないため、企業はこの分野からの撤退を検討し、資源を他の分野に転用していく必要があります。

タイプ別の資金の流出入と配分

「花形製品」は資金の流入と流出が大きく、一方「負け犬」はその両方が小さいため、両者からは資金の純増加は期待できません。それに対して、「問題児」は通常、多額の投資が必要です。つまり、実際に資金を生み出すのは「金のなる木」だけと言えるのです。

したがって、企業にとって成功の鍵は、できるだけ多くの「金のなる木」製品や事業を持ち、そこから生まれる資金をうまく活用して次世代の「金のなる木」を育てることです。そのためには、以下の2つの方法が考えられます。

  1. 「金のなる木」からの資金を「問題児」に投資し、市場が成長している段階で自社の高いマーケットシェアを確立し、「問題児」を「花形製品」に育て上げる方法。
  2. 研究開発への投資を行い、直接的に「花形製品」を開発する方法

もちろん、これらの「花形製品」はマーケットシェアを維持するための投資を続けることで、いずれ「金のなる木」となるよう育て上げる必要があります。

これらの方法を活用して、企業は持続的な成功を収めることができるのです。

PPMの欠点

(1) モラール(士気)の問題

各事業の役割を明確に差別化するのがPPMの特徴ですが、その結果「負け犬」
に位置付けられた事業単位の内部の人々の動機づけが難しくなります。

(2) 経営資源の蓄積などの質的な評価が難しい

PPMでは、企業内部のキャッシュフローのバランスを取ることが重視されています。

そのため、各事業部の資源の必要性と真献は、もっぱらキャッシュフローによってはかられることになり、それ以外の基準が無視あるいは軽視されることになりかねません。

例えば、本来、直接収益を生み出さなくても自社にとっての「経営資源(ノウハウなど)の蓄積」といった点で高い評価を受けるべき事業部が適正に評価されないおそれがあります。

(3) 新しい分野への展開の手がかりにはなりにくい

PPMの分析対象は、進出済み(一定のシェアを持っている)の事業であります。多角化した事業からの撤退のタイミングを見出すための有用な情報を提供するが、今後新しく新規事業として進出すべき、有望な事業を見出すことには不向きといえます。

(4) 自己成就的予言

ある事業部に負け犬というレッテルが貼られてしまうと、その事業部の内部や外部の人々が、当該事業部をそのような目でしか見なくなり、その結果、この事業部は負け犬になり衰退するという人々の予言がより早く実現されてしまいます。これは、社会心理学でいう自己成就的予言という現象です。

(5) 事業間シナジーを考慮していない

PPMでは、事業ごとの資金の流出入と配分のみを分析対象としているため、資金以外のマーケティング面や技術面の事業間シナジーを考慮していないという批判があります。

(6) 外部からの資金調達を考慮していない

PPMの考え方は、企業内部において、資金調達の良い循環を生み出すためには、複数の事業をどのように管理すべきかという問題意識に立脚しています。そのため、企業外部からの資金調達は考慮していません。

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